学校に居場所のない奴が、一番でかい音を鳴らすことがある。
作品概要
2022年4月8日よりNetflixで配信されたアメリカ映画『目指せメタルロード(原題:Metal Lords)』。監督はピーター・ソレット、脚本はドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』を手掛けたD・B・ワイスが担当。上映時間は98分だ。
主人公は高校生のケビンとハンター。ヘヴィメタルにすべてを捧げるハンターに引っ張られる形でバンドを組んだケビンは、学校のバンドコンテストで優勝を目指す。
しかし校内でメタルに興味を持つ生徒はほぼゼロ。
ベーシスト探しが難航する中、マーチングバンドの練習中に顧問にブチギレてクラリネットを投げつけた少女エミリーと出会う。
チェロを弾けると知り、3人のバンドが動き始める。
メタルを愛する男2人と、怒りを抱えた女子1人。接点などなかった3人が、音楽を通じて交わっていく。スクールカーストの最下層で、誰にも見向きもされなかった者たちが、ステージで爆音を鳴らすまでの話だ。
居場所がない者たちの、聖域
物語の冒頭から、ケビンとハンターの孤立ぶりが一目でわかる。
廊下を歩く2人の周囲に、誰もいない。スクールカーストのどのグループにも属していない。陽キャでも陰キャでもなく、ただメタルという離れ小島で2人だけで生きている。
ハンターがケビンに向かって言う。「ブラック・サバス、アイアン・メイデン、ジューダス・プリースト、メタリカ、ディオ…お前の歴史だ、学べ」と。
笑えるシーンだ。しかし同時に、切ない。
これは布教ではなく、孤独な者が仲間に「俺たちの世界に来い」と差し伸べる手だ。メタルは2人にとって趣味ではなく、生きるための場所だった。
だからこそ、バンドコンテストで優勝したいという目標が、単なる承認欲求ではなく、切実なものとして映る。
チェロとメタルが合わさった瞬間
この映画で最もテンションが上がる場面が、エミリーの加入シーンだ。
マーチングバンドの練習中に顧問にブチギレてクラリネットを投げつけた少女。ケビンはその衝動の中に「同族」を見た。チェロを弾けると知り、半ば強引に練習に誘う。
最初、エミリーは乗り気ではない。チェロとメタルなんて、どう考えても噛み合わない。
しかし弾き始めた瞬間、空気が変わる。
チェロの重低音がメタルのリフと絡み合い、ありえない化学反応が起きる。クラシックの楽器が、歪んだギターの隣で轟音を鳴らしている。笑えるほど格好いい。そして3人の表情が、初めて同じ方向を向く。
バラバラだった3人が、音で繋がった瞬間。それまでの孤独や怒りや不器用さが、全部ひとつの音に溶け込んでいくような感覚がある。
ハンターという、愛すべき馬鹿
この映画を面白くしているのは、ハンターというキャラクターの存在だ。
メタルへの愛は本物だが、空気を読まない。言いたいことを言う。
友情すら壊しかける言動を平気でやる。客観的に見れば問題児だが、彼には一点の曇りもない「本気」がある。
ハンターの車のナンバープレートは「PWRSLVE」。
アイアン・メイデンのアルバム「POWERSLAVE」にちなんだものだ。
こういう細部の馬鹿真剣さが、キャラクターのリアリティを作っている。
コンテスト当日、バンドが崩壊しかけた場面でハンターが取る行動は、
理屈ではなく純粋な衝動から来ている。笑いながら胸が熱くなる。
本気の馬鹿は、笑えると同時に格好いい。
この映画はそのことを、98分かけて証明している。
本物のレジェンドが、画面に現れる
この映画には、メタル史に名を刻む本物のレジェンドたちが実際に登場する。
ロブ・ハルフォード(ジューダス・プリースト)、スコット・イアン(アンスラックス)、カーク・ハメット(メタリカ)、トム・モレロ(レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン)。
登場時間は短いが、彼らが物語の重要な場面で「メタルの神」として現れる演出は、メタルファンなら思わず声を上げるシーンだ。
知らなくても笑える。知っていたら鳥肌が立つ。
この映画はメタルを知らなくても十分に面白いが、知っていたらもう一段階楽しめる。その設計が、映画としての間口の広さを作っている。
最後に…
3人の音が初めて合わさったあの瞬間が、ずっと頭に残っている。
チェロでもギターでもなく、バラバラだった3人がひとつになった瞬間として。
見終わった後、少しだけ大きな声を出したくなる映画だ。
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