メッシとロナウド|洗練と進化

この2人を同じ時代に見られている。
それだけで、サッカーを好きでよかったと思う。

概要

リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウド。2008年から約10年間、
バロンドールを独占し続けた2人は、サッカー史上最も長く、最も激しく
比較され続けてきたライバルだ。受賞回数はメッシが8回、ロナウドが5回。

この2人だけで合計13回という、想像を超えた記録を作り上げてきた。

2026年北中米W杯。今大会で2人は史上初めて6大会連続出場を成し遂げた。
39歳のメッシは大会中に誕生日を迎え、先日のアルジェリア戦でハットトリックを達成。
そしてヨルダン戦でも直接FKを決め、史上初のW杯7試合連続ゴールという新記録を樹立した。
今大会6得点で得点ランキング1位、W杯通算19得点も歴代単独最多を更新中だ。

クラブでは、2011-12シーズンにバルセロナで
公式戦73ゴールという、歴代シーズン最多得点を記録した。

一方のロナウドも41歳で健在ぶりを見せている。ウズベキスタン戦で2得点を挙げ、
史上初の6大会連続得点者という記録を樹立。
さらに、この試合で男子サッカーの国際Aマッチ最多得点記録を145得点に更新した。

これはメッシの代表通算得点をも上回る、世界記録だ。

39歳と41歳。2人がピッチに立つ姿を見られる時間は、もう刻一刻と短くなっている。

サッカーは結局、3つのアクションの連続でできている。
奪う、運ぶ(繋ぐ)、撃つ。
この単純な構造の中で、2人がどう振る舞ってきたかを見ていく。


C.ロナウドという男

クリスティアーノ・ロナウドは、ポルトガル・マデイラ島出身。
スポルティングCPの下部組織から這い上がり、
2003年、18歳でマンチェスター・ユナイテッドに加入した。

当時のロナウドは、サイドで仕掛けることに特化したドリブラーだった。
何人もかわし、観客を沸かせる派手なプレーが代名詞だった時代だ。
ボールをこねくり回すのが大好きなサッカー少年だった。

2009年、レアル・マドリードへ移籍してから、その姿は大きく変わっていく。
余計なプレーを冷徹なまでに削ぎ落とし、ゴールを決めることに全神経を集中させるストイックな
ストライカーへと変貌していった。
その後ユベントスを経て、古巣マンチェスター・ユナイテッドに復帰。
そしてアル・ナスルへと渡り歩きながら、得点を量産し続けてきた。

ポルトガル代表としては、通算220試合以上を出場し、
歴代最多得点者として国の歴史にその名を刻んでいる。
そして男子サッカーの国際Aマッチにおいては、
史上誰も到達したことのない145得点という世界記録の保持者でもある。


メッシという男

リオネル・メッシは、アルゼンチン・ロサリオ出身。
13歳でバルセロナの下部組織「ラ・マシア」に渡り、
育成からトップチームまでを一気通貫で過ごしたクラブの申し子だ。

バルセロナ一筋でプレーを続け、リーグ優勝10回、チャンピオンズリーグ優勝4回など、
35個ものタイトルを獲得。

特に2009年。
・国王杯
・リーガ
・チャンピオンズリーグ
・スペインスーパーカップ
・UEFAスーパーカップ
・クラブW杯

シーズンでとれる全てのタイトルを獲得する6冠を達成する圧倒的な強さを世界に見せつけた。

その後パリ・サンジェルマンを経て、現在はインテル・マイアミに所属している。
アルゼンチン代表としては2021年のコパ・アメリカでA代表初タイトルを
獲得し、2022年カタール大会では念願のW杯優勝も成し遂げた。
文字通り「生きる伝説」だ。


両者の数値的な比較

NHKスペシャル『ミラクルボディ』(筑波大学・浅井武教授らの共同解析)では、
2人のドリブル時の特徴が数値として可視化された。

項目メッシロナウド
1歩の距離(歩幅)約1.4〜1.6m約2.1〜2.3m(陸上短距離選手並み)
1秒間のタッチ頻度約4回(ほぼ毎歩触る)約2回以下(数歩に1回の大きなタッチ)
身体とボールの距離常に70cm以内2〜3m以上

数値が示しているのは、2人の哲学がまるで違うということだ。

メッシは無意識の高速ステップを武器にする。
歩幅が狭く、常にボールが足元にある。ディフェンダーが足を出す0.4秒の隙に、
次の一歩でコースを変えられる。
脳の解析では、相手の重心の偏りを無意識レベルで瞬時に捉えて逆を突いていることまで判明した。

ロナウドは爆発的な推進力で勝負する。
ボールを大きく前方へ押し出し、自らの圧倒的なスプリント能力を最大限に活かして、
ディフェンダーを力任せに置き去りにする。
肉体的な強さが、数値そのものに表れている。


後出しジャンケンの男

この数値の違いを実際のプレーに当てはめると、ある言葉が頭に浮かぶ。

メッシのドリブルは、ずっと後出しジャンケンをしているようなものだ。

トップスピードからの切り返しが異常に早く、スムーズで、小回りが効く。
体が小さく重心が低いことも理由の一つだが、それだけではない。
手を後ろに引いてブレーキをかけ、アウトサイドでのタッチを多用する。
これらすべてが、相手の出方を見てから自分の手を出すための準備動作に
なっている。

対するロナウドは、先に動く男だ。大きなストライドで一気に距離を詰め、相手が反応する前に勝負を決めにいく。

先に動くロナウド。
後から動くメッシ。

速さの種類が、根本から違う。

ゴール方向へ向かってボールホルダーと並走しているとき、
ロナウドの迫力は、鬼気迫るものがある。
獲物を狩る瞬間の獣のような、無駄のない直線的な動き。

一方でメッシは、フィールド全体を支配する。
相手が嫌がるポジションを取り続け、マークが付きづらい。
持ち場を離れて捕まえに行けば、他の選手がフリーになる。
手のつけようがない。

ロナウドはアスリート能力が高い。
メッシはサッカーが上手い。

この二つの言葉が、これほど正確に2人を言い表すとは思わなかった。


自陣からのカウンター、二人だけの解答

数値や個人技の話を超えて、最もこの2人の違いが面白く出る
シチュエーションがある。

自陣でボールを受けた瞬間の、その先の振る舞いだ。

ロナウドは、早めにサイドへパスを散らす。そこからは自分の仕事、

オフザボールの駆け引きが始まる。

目指すは常にGKとDFの間、ペナルティスポット近辺の僅かなスペースだ。
持ち前のスピードでDFラインの裏へ抜け出すこともあれば、一度DFの背後に隠れてからクロスの瞬間にニアへ切り込むこともある。あるいは大きく膨らみながらファーで合わせにいくこともある。
レアル・マドリード時代、ベンゼマという最高に気の利く相棒と幾通りもの形でDFを翻弄し、
ゴールを量産し続けた。

メッシは、まったく違う。
自陣でパスを受けると、面白いくらい簡単に前を向く。
そのままセンターサークルからペナルティエリア手前まで、ドリブルで運んでいく。

そしてゴール正面で、左サイドのジョルディ・アルバへパスを散らす。

ここからが、メッシの異常なところだ。
パスを出した後、その場にとどまる。

普通の選手であれば、パス&ゴーでそのままエリア内に侵入し、
自らフィニッシュに点で合わせにいくはずだ。

しかしメッシは違う。ボールを離した瞬間、DFはゴール前を固めるためにラインを下げる。
あれだけ警戒していたはずのメッシが、ペナルティアーク付近のゴール正面でいつの間にかドフリーになっている。
アルバから折り返されたマイナスのパスが、そこに静かに収まる。

フリーのメッシにボールを渡してしまえば、ゴールを決めることはあまりにも簡単だ。

GKとDFの間のスペースを使うロナウド。
DFを下げさせ、DFとMFの間にスペースを作るメッシ。

同じ「自陣からのカウンター」という状況設定でありながら、
2人が向かう先はまったく逆だ。

ロナウドはゴールに直結する最後の隙間を突き、
メッシは自らが運ぶことで相手の陣形そのものを歪ませ、生まれた歪みの中に立つ。

点を取りにいく男と、
点を取れる状況を作ってしまう男。

この対比こそ、2人の哲学の違いが最も鮮やかに表れる瞬間だと思っている。


ファンタジスタの時代から、アスリートの時代へ

10番がファンタジスタと呼ばれた時代があった。

技術と発想、創造性こそが価値とされ、フィジカルやスピードは
二の次だった時代。

しかしサッカー界のトレンドは、年々アスリートとしての強度を求める方向に移り変わっていった。

この転換期を、2人はまるで違う方法で乗り越えた。

ロナウドは、自らの肉体を最適化することで時代に適応した。
フィニッシュワークに特化し、運ぶ(繋ぐ)の部分を削ぎ落とし、
撃つことだけに自分を最適化していった。

時代がアスリートを求めるなら、自分自身がその時代の象徴になればいい。そう考えたかのように。

メッシは、自分の哲学を一切変えなかった。
止めて蹴るという、サッカーの最も原始的な動作の精度を、誰にも到達できない領域まで磨き続けた。
フィジカルの時代になっても、メッシだけは変わらず、ピッチを「刻む」ように走り続けている。

時代に合わせて変わる強さと、時代に染まらない強さ。

どちらも、本物の強さだ。


最後に…

奪う、運ぶ(繋ぐ)、撃つ。

この単純な3つの動作の中に、2人はそれぞれ違う答えを見つけた。

ロナウドは、撃つことに自分のすべてを捧げた。
メッシは、止めて蹴るという基本の中に、誰も真似できない境地を作った。

どちらが正解か。
これからも決まらないだろう。それでいい。

ただ、この2人が同じ時代にピッチに立っている。それを見られる時間は、もう長くない。

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