やっと睡眠不足から解放される。
と同時に、喪失感に苛まれている。
今大会の特性
アメリカ・カナダ・メキシコの3か国開催。
エンタメの国アメリカを中心に、W杯としては異例の大規模開催となった。
参加国は48か国、都市は16、試合数は104。
史上最大規模の大会である。
特に今大会の特異点といえば、
・スローイングやセットプレーに対する厳格な時間規制(試合進行のスピード向上)
・前後半22分時点での3分間のハイドレーションブレイク(前後半の2部構成から4部構成へ)
・センサーや多数のカメラ導入によるデジタル化
(スウェーデン対チュニジア戦での際どいタッチ判定が象徴的)
これらはいずれも、試合進行を効率的かつスピーディーに行うためのものだ。
参加国数も増え、試合数も増えた。効率化を図る意図は理解できる。
だが同時に、サッカーというスポーツにおいて重要視される「間」が失われた大会でもあった。
特に印象的だったのは、ハイドレーションブレイクの導入とスローインにおける制限時間だ。
今までであれば、ボールがピッチ外に出た際に、選手それぞれがピッチサイドのボトルで給水を行っていた。今大会はこれがルール上ほぼ行えない状況だった。
夏が始まるこの時期、水分不足は当然のように起こる。過密スケジュールと大規模開催によって生じる試合間の長距離移動。疲労は増す一方だ。
今大会、何人の選手が足をつってピッチにしゃがみ込んだだろうか。
試合進行の高速化のために導入したルールが、結果的に試合の進行そのものを妨げていた。
上位4か国の特性
今大会ではFIFAランクの上位4か国が順当にベスト4に進出した。
フランス:各ポジションに、現代サッカーを象徴する選手がいる。名前を聞いたことのない選手を探す方が難しいほどの布陣。圧倒的な「個」。
自分の持ち場を一人で完結させることができる選手が11人揃っている。
特に前線のエンバペ、デンベレ、オリーセは今大会屈指の攻撃陣。DF陣の強さから繰り出す
高速カウンターが最大の脅威だった。3位決定戦ではその攻撃力を存分に発揮し、
エンバペは大会得点王のタイトルを手にすると同時に、W杯通算得点でメッシを抜き歴代単独トップに立った。
イングランド:現代サッカーの最高峰である「プレミアリーグ」のオールスターが結集。
メンバーから漏れた選手だけでも、ハイクオリティーなチームが作れるほどの層の厚さ。
特に今シーズン最多得点者のケイン。23歳の若さで銀河系軍団レアル・マドリードとイングランド代表を牽引するベリンガム。
事実、3位決定戦までは両者が6点ずつ取り、攻撃を牽引していた。サイドには高速のウイング、
真ん中には試合をコントロールする頭脳派のライス。現代サッカーを象徴するチームだった。
準決勝まで目立たなかったサカが、3位決定戦の前半だけでハットトリックを叩き込んだのも印象的だった。
アルゼンチン:2022年大会を制した王者。
2024年のコパ・アメリカを2021年大会に次いで連覇し、南米王者と世界王者、両方の肩書を引っ提げての参加だった。
サッカー史上No.1の呼び声が最も高いメッシを要する、一枚岩のチーム。
球際の強さと土壇場での勝負強さ。
ハードな日程が想定されていた今大会でも、当然のように優勝候補だった。
スペイン:18歳という若さで、すでにサッカー界の顔となりつつあるヤマル、2024年バロンドール受賞者のロドリをはじめ、昨今のサッカー界の中心的な選手が多く選出された。
特筆すべきは、FCバルセロナから8名も選出されていたこと。
スペインのサッカーは、ずっと変わらず徹底している。唯一無二の哲学がある国だ。
「自らボールを保持し、試合を支配する」。
このスタイルは初優勝を果たした2010年大会でも健在だった。
今大会前の直近では、2024年のユーロで優勝している現欧州王者でもある。
国際Aマッチ38戦無敗という記録も、この哲学の一貫性を物語っている。
3位決定戦【イングランドVSフランス】
3位決定戦は不要ではないか、という声をたびたび耳にする。
私は以前、1試合でも多く見られるから賛成派だった。
だが正直、今大会の3位決定戦は満足のいく内容ではなかった。
スコアだけ見れば6-4という、計10点も入るサッカーとは思えない乱打戦だった。
だがそれは、フランスの守備の甘さの裏返しでもある。
DFが時間を稼いでいるのに、誰も戻ってこない。
この試合を見て、純粋にフランスよりイングランドの方が強いとは言い切れない内容だった。
もちろん、勝ったイングランドには賞賛を送りたい。
ただ、純粋なサッカーファンとしては、少し納得のいかない試合だった。
皮肉なのは、優勝の懸からないこの一戦で大会得点王が決まってしまったことだ。
エンバペの2得点は見事だったが、消化試合でタイトルが確定する構図には、
一部から「スタッツ稼ぎではないか」という批判の声も上がっていた。
決勝戦【スペインVSアルゼンチン】
毎大会、南米王者と欧州王者が戦う「フィナリッシマ」という試合が、ユーロとコパ・アメリカの終了後に行われる。だが2024年は世界情勢の影響で実施されなかった。
奇しくも、その顔合わせが2026年W杯決勝という最大の舞台で実現したことになる。
決勝に至るまでの両チームは対照的だった。
失点はベルギー戦での1点のみ。すべての試合でゲームを支配してきたスペイン。
準決勝では、最強との呼び声も高かったフランスを2-0で完全に圧倒しての決勝進出だった。
対するアルゼンチンは、激闘の連続だった。
カーボベルデ、エジプト、スイス、イングランド。何度も逆境をはねのけてきた。
特に印象的だったのはエジプト戦と準決勝のイングランド戦。
エジプト戦では2点差、イングランド戦では1点差を、ラスト10~15分でひっくり返して勝ち上がった。延長戦ではない。90分で勝ち切ったのだ。
リードして試合終了を目前としたチームは、自陣に選手を下げて守備を固める。
それをこじ開けるのは、どんな強豪国であっても至難の業だ。
現にスペインは初戦のカーボベルデ戦でスコアレスドローに終わっている。
それほどまでに難儀なことなのだ。
アルゼンチンはそれを2度も成し遂げた。鍵のかかった扉をこじ開ける勝負強さは、今大会随一だった。
決勝は延長戦に突入し、PK戦も見えてきた矢先、106分にフェラン・トーレスのゴールでスペインが
1点をもぎ取った。欧州王者が南米王者を下し、世界王者の称号を手にした瞬間だった。
スコアだけ見れば接戦だが、内容はスペインが圧倒していた。
90分間、アルゼンチンにまともなシュートをほとんど打たせなかった。
スペインの哲学は、アスリート化が加速する現代サッカーにおいては異質でありながら、大会を通して見事に他国を打ち負かした。
アルゼンチンにとって、エンソ・フェルナンデスの退場はあまりにも痛かった。
ただでさえ「耐えていた」展開だったにもかかわらず、さらに1人少なくなる。
ましてや相手は、ボールを持たせたら世界一のスペインだ。
パスを回しながらアルゼンチンの陣形にズレを作ることは容易だった。
それでも耐えていた。メッシは最後までシュートを打てないまま、決勝の舞台を後にした。
私は見ながら、スペインのあまりにも美しく驚異的な強さに感嘆すると同時に、走り、しのぎ続けるアルゼンチンの底力と王者のプライドに感動し、涙が出そうになっていた。
気になった選手
クバルシ【スペイン】:FCバルセロナでも替えの利かないCB。対人の強さ、縦パスの精度。
どちらも一級品。特筆すべきは「ボールを運ぶ力」だ。
自陣からドリブルで持ち上がり、ハーフラインを幾度となく越えていく。
これをされると相手はFWとMFが分断され、自陣深くまで押し込まれる。
19歳にして、すでに世界最高峰のCBだった。
同じく19歳のヤマルとともに、決勝という最大の舞台でも物怖じしない姿は、この大会で最も記憶に
残るシーンの一つだ。
ブアディ【モロッコ】:18歳のボランチ。くるくるとした長髪が特徴。
クバルシと違い、今大会で初めてプレーを見た選手だった。
初戦のブラジル対モロッコ戦で衝撃を受けた。
「なんだこいつ」と声が出た。知らなかったことが恥ずかしいとすら思った。
一言でいえば、あまりにも「サッカーが上手い」。派手さはない。
ただ、ボランチとして陣形の中心で、へそであり続けている。
的確な位置に常にいるため、
ボールを簡単に奪うし、取られない。
これから個人的に追いかけたい選手だ。とても楽しみである。
最後に…
毎大会、スペインとアルゼンチンには注目している。
私は今大会が始まる前に、メッシとヤマルについて少し思いを書いた。
なぜなら私は、小さい頃からずっとFCバルセロナのファンであり、同時にメッシの熱狂的なファンでもあるからだ。
サッカー小僧だった頃、深夜のサッカー番組(おそらくやべっちFC)で、バルセロナの下部組織の映像が流れた。一人だけ目立つほど小さな男の子が、自分よりはるかに大きな選手たちをごぼう抜きにしていた。その瞬間、当然ファンになった。体が小さかった私は、あの映像にとても勇気をもらった。
どちらが勝ってもいいと思える決勝は、初めてだった。結果、スペインが勝った。
試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、私は手をたたき「スペインおめでとう」と口にしていた。
と同時に、悔しさもあった。アルゼンチンが負けた。少年時代からあこがれていたメッシが負けた。
2014年にも、アルゼンチンは決勝でドイツに負けている。あの時はしばらく落ち込んでいた。
今回は、そんなことはなかった。優勝したのがスペインだったからだと思う。
人生でサッカーを何試合見てきただろうか。今回、初めての経験をした。
初めて「両チームを応援した」試合だった。
私は4年に一度やってくるサッカーW杯を、幼少期から毎回楽しみにしている。
6月12日に開幕してからの約40日間、最高に楽しかった。有休も大放出した。
4年後、またこの熱狂を味わえると思うと、すでに楽しみでならない。
2030年大会を今大会よりも楽しむために、今日からの4年間でサッカーをたくさん見ようと思う。
次は現地で。

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